がんとともに生きるこどもたちとの生活~看護師ができること~
【スポンサーリンク】
小児がんって、聞いたことありますか?
また、どのようなイメージがあるでしょうか?
私は3年間、小児がん病棟で働いていました。
白血病や脳腫瘍など広く知られている病気もありますが
実際に子どもたちが入院中にどのように過ごしているのか、
また看護師がどのような看護をしているのかは
あまり知られていないと思います。
3年間小児がんの病棟で働いていた中で、
やりがいを感じると共に、
自分はこどもたちの力になれているのか、
無力を感じることもたくさんありました。
もしかしたら、
同じような気持ちを抱えている看護師さんや
その他の小児がんに関わる方がいるのかもしれません。
そのような経験をした中で
微力な看護師にもできることは
たくさんあるのだと気づけたので
ここに記したいと思い、記事を書きました。
今回は、大まかな内容ではありますが
看護師と子供たちとの生活、
そしてその中で看護師ができることは何なのか、
についてお伝えしていこうと思います。
小児がんってなんだろう
がんは、こどもから大人まで、
日本人の代表的な死因としてあげられる病気です。
大人のがんは、日本人に2人に1人の割合で罹患するといわれており、
生活習慣病や環境要因などが発生原因としてあげれます。
小児がんの原因因子は、
遺伝子の突然変異や先天性の疾患などが主なものとして挙げられていますが、
希少ながんも大変多く、原因が特定できないものも多くあるとされています。
原因因子がわからない、不治の病とされていましたが、
現在では小児がんは8割以上が完治できるようになりました。(※がんの種類によります。)
例えば上記の図で「白血病」「リンパ腫」「脳腫瘍」
とありますが、
その中でもたくさんの病気に分類されます。
例えば白血病では
➀急性リンパ性白血病
②急性骨髄性白血病
➂慢性骨髄性白血病、と
大きく3種類に分けられます。
子どもの場合は、➀が最も多いです。
イメージとしては
くだもの(がん)→りんご(大分類:白血病)→秋映え、シナノスイート(小分類:急性リンパ性白血病)
こんな感じでしょうか?(笑)
病気の診断がついた後は
白血病の種類、発症年齢や突然変異が起こった原因遺伝子など
様々なことを考慮して、
個々に合わせた治療スケジュールが組まれていきます。
がんの治療の内容は?
入院期間は、治療計画(レジメン)によって異なります。
急性リンパ性白血病(ALL)の場合、1年程度は入退院を繰り返して治療をしていきます。
脳腫瘍や固形腫瘍(脳と血液以外の臓器のがん)の場合は、半年ほどかけて入退院を繰り返しながら治療をしていきます。
治療内容としては、
- 抗がん剤治療
- 放射線療法
- 手術で腫瘍摘出
- ステロイド
- 骨髄移植、臍帯血移植、自家移植
などがあげられます。
こどものがんは増殖が早いのですが、それゆえに抗がん剤による反応性がよいので、
多剤併用といい、たくさんの抗がん剤を組み合わせた治療計画(レジメン)をもとに、治療を進めていくのです。
看護内容は
- 抗がん剤の副作用の対応
- 飲み薬の介助
- 医療麻薬の管理
- 清潔ケア
- 検査や処置前のこどもへの説明
- 患者・家族の心のケア
看護業務はほかにもたくさんあるのですが、メインとなるのはこのあたりです。
こどもとの日々の葛藤
こどもに説明する
治療を始めるうえで、まずこどもにすることは「説明」です。
- なぜ入院することになったのか(例:からだのなかのばい菌まんをやっつける、など分かりやすい言葉を使って説明)
- どんな治療や処置をするのか(例:お薬(抗がん剤)でばい菌をやっつけるよ)
- こどもに協力してほしいことは何か(例:泣いてもいいよ。でもちっくん(注射)はがんばろうね。)
医師や看護師、チャイルド・ライフ・スペシャリスト(CLS)と連携して、こどもや親への理解を促し、治療へのやる気を引き出します。
こどもの自尊心を大切にすることは
後に、こどもの自主性を引き出すことにも繋がると考えます。
※CLSとは、医療環境にあるこどもや家族に、心理社会的支援を提供する専門職のこと。こどもへの説明のプロです。
抗がん剤治療の副作用の対応
抗がん剤の副作用って、何を想像しますか?
髪の毛が抜ける、嘔吐する
このへんが印象にあるのではないかと思います。
抗がん剤は、がん細胞を破壊・死滅させますが、
同時に元気な細胞も一緒にやっつけてしまいます。
そのため、骨の中にある「造血幹細胞」も破壊されてしまいます。
造血幹細胞では、
赤血球(体に酸素を運ぶ)、
白血球(細菌やウイルスから体を守る)、
血小板(血を止める)などが作られていますが、
もちろんこれらの血球も破壊されてしまいます。
造血幹細胞が正常な血球をつくれるようになるまで(骨髄抑制期という)に、1か月ほどかかるので、
その間、感染症に気を付けたり、貧血症状、出血傾向(血が止まりにくい状態)に注意しながら看護する必要があります。
貧血や出血傾向を示す血液データがみられた場合は、輸血をします。
そのほかの主な副作用を挙げてみました。
- 嘔吐
- 下痢
- 便秘
- 口内炎
- 味覚の変化
- 脱毛
- 皮膚の乾燥
- 貧血
- 出血傾向(血が止まりにくい)
- 感染(発熱)
★実際に使った本で、抗がん剤の勉強に役立つ参考書(最新版)
★嘔吐
抗がん剤の副作用で、薬の投与直後の嘔吐(急性嘔吐)、投与後しばらくしてからも続く嘔吐(遅発性嘔吐)、投与前の嘔吐(予期性嘔吐)があります。
嘔吐の種類によっても制吐剤(嘔吐を止める薬)の使用のタイミングや種類が違うので、こどもの様子を見て医師と相談していきます。
★粘膜障害
下痢や口内炎は「粘膜障害」と言われるもので、
抗がん剤により粘膜が傷ついていしまうことから起こります。
口内炎は、口の中の細かい血管から抗がん剤がしみだしてくることによりできてしまうので、症状を起こさない、
または最小限にするためには、歯磨きがとっても大事です。
歯磨き嫌いなこどもとも、交渉して必ずやり遂げます。
★便秘
抗がん剤の種類によっては、便秘になることがあるので
緩下剤を使った排便コントロールが重要です。
硬いうんちだと、いきんだときにお尻が切れてしまうことがあります。
傷口からの感染を防ぐために、いきまなくてもよいような柔らかいうんちが出るように、緩下剤の量やタイミングの調整などをすることも、
看護師の腕の見せ所だと思います。
排便のリズムや薬の効き方って、ほんとうに患者さんによりけりなのです。
だから、うんちのコントロールに悩むこどもや親、多いんですよね。
こどものお母さんたちと、よく便トークで白熱します。(笑)
★感染対策
お熱が出ないように、手洗いを教えます。
★皮膚の乾燥対策
お風呂上りに保湿を徹底します。
口腔内の粘膜の乾燥に関しては、マウスジェルと呼ばれる保湿剤を使用したりします。
内服介助
飲み薬が苦手な子って、やっぱりちらほらいるんです。
飲める子は
- 粉のまま水で飲む(ほぼ食べている子とかも。笑)
- 単シロップで溶いて飲む
- 錠剤でのむ(ラムネって言って飲んだり)
飲めない子はどうするかというと
- 薬を飲んだらシールをあげる
- できたことをほめる
- 口直しにジュースやゼリーなどを使う
などなど、工夫を凝らします。
成功体験につなげることが、とても大事だと思います。
もともと苦手なんです…と親が言っていた子も飲めるようになった子はたくさんいます。
薬を飲むことがネガティブな体験にならないように。
看護師の頑張りどころです。
ジュースやチョコシロップ、綿あめなんかと一緒に薬を飲んでいる子もいましたが、そういうものとの飲み合わせが悪い薬もあるので、必ず薬剤師と相談してくださいね。
こどもたちはみんな我慢をしている
親と離れ離れになったり、
つらい抗がん剤治療をしたり、
外で思いっきり遊べなかったり
みんなストレスを抱えています。
そのため、癇癪を起すようになったり、心が不安定になるこどもも。
ベッドの上でゲームをする時間やDVDを見る時間が延々と続いてしまうこともしばしば。
入院すると、生活ががらりと変わってしまうので
こどもたちの心理・成長発達にも大きな影響を与えてしまいます。
病院にいる間は、病院が子どもたちの成長発達の場所であるので、
子どもたちの心理面や体調なども踏まえて
できるだけ成長を促していく関わりをしていくことが
看護師の大切な関わりであると考えます。
毎日がんばってるね。
○○ちゃんは何も悪くないんだよ。
ママすぐに帰ってくるから、一緒に待っていようね。
こどもの気持ちを肯定し、安心させる声かけを心がけています。
ときにはけんかするときもあるけどね。(笑)
がんになったこどもの親との関係の作り方は?
「がんと診断されたとき頭が真っ白になった。」と話される親御さんは多くいます。
その時看護師ができることは
思いを受け止めること。
もし親御さんから傷つく言葉をかけられたとしても
それは看護師を傷つけたくて、かけている言葉ではないと思います。
「つらい、苦しい」というSOSではないかと思います。
みんな不安と戦い、
これからどのような治療が始まり、こどもにどのような副作用が現れるのか
生活はどうなるのか。
医師に聞けなった疑問点などを1つ1つ看護師が聞いていきます。
治療が始まれば、さらに不安も出てくる。
話を聞いて、不安な気持ちを緩和していきます。
どうでもいい世間話もたくさんしますし、楽しい時間もたくさん過ごします。
とにかく
たくさんコミュニケーションを取ります!(^^)
看護はそこからしか生まれないと思っています。
最期を迎えるこどもたちと過ごす時間
がんは治るようになってきた病気ですが、まだまだわたしが生きた年数よりも早くに天国にいってしまうこどもたちも少なくありません。
病院で最期まで治療を続ける子
自宅に帰って最期は家族で過ごす子
亡くなる日の当日に、イチゴをおいしそうに食べている子もいました。
本当に、こどもによって様々で
どの時間も大切であると思います。
そして、ある看護師さんが言っていたことで、
素敵だなと思った言葉があります。
「亡くなる瞬間に立ち会うことも大切。
でも、亡くなるまでに過ごす時間のほうが
なによりも大切である。」
という言葉です。
過ごし方に正解はありませんが、その子がどのように過ごすのが好きなのか、何をしたいのか、最期までその命が輝けるようにこどもや家族の思いをくみ取ることは、看護師がお手伝いできることだと思います。
まとめ
看護師として、がんと闘うこどもにできること。
それは、こどもの気持ちを尊重して向き合うことだと思います。
そして、できるだけ苦痛がないように
ケア方法を工夫し、実践すること。
もう一つ、大切なエピソードがあります。
それは全盲で難聴のこどもを担当していた時のこと。
その子に毎回担当になったときに絵を描いてあげていました。
それを見たその子の母親が、
「目がみえない子としてではなくて、”普通の子"と同じように接してくれて、嬉しかった」と、教えてくれました。
本当に、私にとって大きな気づきでした。
言いたいことは、目が見えないこどもにも絵を描いてほしいということではありません。
がんを患っていること以前に、その子は自分の人生を生きている。
自分の当たり前と当たり前でないものは、人によって違うのだということです。
そのこどもや家族がどのような気持ちで生きているのか。
気持ちを想像して、そっと寄り添うことが看護師にできること。
看護師でなくても、どんな方にもできることだと思います。
がんとともに生きたこどもたちは、社会に出て、いろんな壁にぶつかるかもしれない。
一人でも小児がんのことの理解が深まれば、その子にかける言葉も対応も、違うと思います。
この記事も読んでいただいたかたに、少しでも参考になるものとなれば嬉しいです。
★おすすめHP
★実際に使っている参考書
読んでいただきありがとうございました(^^)
侑子